もう動けない、歩く事なんてできないはずなのに、晴くんはちゃんとオシッコを教えてくれた…昔からそう。
晴くんはベッドで一度もオシッコをしたことがない。出る時はぴろを起こしてでも必ず教えてくれる。
慌てて抱っこしてケージまで連れて行くと、これでもかってぐらいじょ〜〜〜っと長いオシッコをする。
その時と同じようにケージに戻すと、立っていられないのにオシッコをがんばる。
やっとの思いで少しだけ出すと、もうぐったり倒れてしまう。
いろいろな事を考えながら晴くんを見てた・・・
気が付くとぴろは居眠りをしてしまっていた。なんで?なんで”こんな時”に眠れんだよ〜!
目が覚めて、慌てて晴くんに目をやる…動いてない…「はるっ!!」
…ほんの少し反応してくれた。
すぐにケージから抱きかかえてベッドに横にならせるとジタバタ歩き回る。
なんで?どこにそんな力が残ってるの?
しばらく続けると、やっと止まってお手々ぐ〜のポ〜ズで落ち着いた。
でも目はとろんとして、呼吸は間があくようになっていた…
たまにアゴが外れそうなくらい大きな口を開けて、吐くような格好をする。
よっぽど苦しいんだね…もう逝っちゃうんだね…晴くんを抱っこした。

「晴くん…もういいよ。もうがんばらなくていいよ。苦しいね。ごめんね。
こんなに苦しい思いさせてホントにごめんね…もういいから…。」

晴くんはぴろをずっと見つめてた。
ぴろは晴くんのお腹や背中、頭を撫でながら「今までありがとうね。」とか、
「晴くんよくがんばってくれたね。」とか言いながら、今がお別れの時なんだって自分に言い聞かせていた。
きっと居眠りをしてしまったぴろが目覚めるまで、晴くんは必死で待っててくれたんだ。
時間にしたら1時間ぐらいだったと思う。その間苦しむ晴くんをずっと見守っていてくれたらしいめろんちゃん。
晴くんが具合悪くなってから、めろんちゃんも心配してくれて、ずっと一緒にいてくれた。
晴くんに掛かりっきりのぴろにあたることもなく、ずっと3人で一緒にいた…。

でもとうとうお別れの時がやってきた…

晴くんを抱いてベッドの上で大声で泣きじゃくるぴろ。
そのぴろの横でお座りして、晴くんをペロペロ舐めるめろんちゃん…
どのぐらいそうしてたんだろう?多分そんなに長い時間ではなかったと思う。
突然晴くんが「んげぇ〜!!」と精一杯大きな声をあげた…声じゃない。あれは悲鳴だったね。
そして伸びた体が縮んでいく間に息を引き取った…大きく開いた目…なかなか手で閉じてあげられない。
まだ生きてるかもしれない…だってまだこんなに瞳はキラキラしてる…

何時間泣いて、何時間そのままだったんだろう?
多分足がしびれたとか、手がしびれたかなんかで、やっと我に返ったんだと思う。
でもそれからもずっと横になって晴くんを撫でながら、色々話かけていた。
時間が経つにつれて、晴くんの瞳はキラキラがなくなっていく…仕方なく目を閉じてあげる。
でもあんなに苦しんだのに、今はまるで眠ってるみたいに穏やかなお顔。
それでも体はどんどん冷たくなって…
晴くんが冷たくなっていくのが悲しくて自分のお腹の上にのせて布団もかけて暖めた。
そんなことしても無駄だと分かってても、晴くんが寒いんじゃないかと思って…
そんなぴろのお腹はどんどん冷えた…すごく苦しかった。
でも不思議なことに、晴くんは死後硬直を起こさなかった。
ず〜っとふにふにやわらかいまま。だから余計に死んだと思えない。思いたくない。
出来る事なら、このままにしておきたいと思った。
でもさすがにまわりの反対もあったし、晴くんの匂いも変わってきていたので、お葬式のことを考え出した。

昔、晴くんと出会う前、うちにはハムスターが14匹いた。
初めはオスとメスの1匹ずつだったけど、2回赤ちゃんを産んでもらってみんなうちで育てていた。
でもぴろの不注意で真夏に6匹も死なせてしまって…ペットの葬儀屋の広告を見てそこに頼んだ。
車で引き取りにきてお経をあげ、簡単なお葬式を済ませ、あとは火葬をして合同墓地に埋葬すると言われた。
でもこの葬儀屋最低!!しばらくたって、お墓参りをしたいと思って出かけてみると、
パンフレットに載っていたような環境でも墓地でもなく、そこは掃除もされていないボロ家の庭だった。
墓石もあることはあるけど、ただの石がほとんど・・・騙されたんだ。すごく悔しかった。
でも自分にも責任がある。もっとしっかり調べて、色々探すべきだった。
だからその後に亡くなったハムちゃん達は、ベランダのプランターに眠ってる。
人に言うと気味悪がられるけど、他に納得いく方法が見つからなかったからいいの…

でも晴くんはさすがにプランターでは無理。あちこち調べて一番親身になってくれたところに決めた。
そこはどんなに遠くても送迎付きで、火葬場でお葬式をして、お骨も自分で拾えるそう。
亡くなってから3日目に晴くんの姿は骨だけに変わる…
迎えが来た。「ちょっと早く着いてしまったので、どうぞゆっくり出てらしてください。」とрナ話した人と同じ声。
ふにふにの晴くんをタオルでくるみ、お顔だけは出して抱っこした。
そしてまた色んなことを話した。そこにはもちろんめろんちゃんも。
涙って涸れないんだね…これでもかってぐらいたくさん泣いたのにいくらでも溢れてくる……
「もうお別れだよ。」とめろんに言うと、またペロペロ。
嘘かと思うかもしれないけど、ホントにめろんは何もかも分かっているようだった。
「じゃあ行ってくるからね。」と家を出て、晴くんとのドライブが始まった。

その日は11月だというのに、ぽかぽかと暖かく、
まるで晴くんがうちにやってきた5年半前の5月25日と同じ、五月晴れのような日だった。
1時間半はかかったと思う。火葬場に着いて、お経をあげてもらう。
その間5年半、一緒に過ごしてきた日のことを思う…ここでもホントによく泣いた…
そして釜へ案内される。なかなか晴くんを離せない。これでホントにお別れかと思うと離せない。
そのまま連れて逃げ出そうかと思った。でも…
添えるお花も用意されて、「ではこちらに…」と言われて仕方なく…ホントに仕方なく晴くんを離した。
お花を添えて、また撫でる。「ごめんね。」しか言えない。
「お骨になるまで30分くらい掛かりますので、中でお待ちください。」
ガッシャンと釜の戸を閉める大きな音が響いた。
それからまた泣きまくった…あのかわいい晴くんの姿がなくなってしまう。抱っこすることもできない。
なでなでしてあげることも…でもしばらく泣いたらだいぶ落ち着いた。
ある意味、ここでやっと諦めがついたんだと思う。
それから外に出て、釜から上がる煙=晴くんをずっと眺めてた。

「今日は晴れてて良かったね。晴くんが天国に行くのにふさわしい日だね。気を付けて行くんだよ。」

お骨を拾い、骨壷に納める。とても小さな骨壷。
骨だけの中に病んだ肝臓・腎臓のあとらしいものが残っていた。
病巣は黒く、砕けた石のように残るのだそう…でもそれはそこで処分してもらった。
晴くんを奪った憎いものだから。
そうして骨だけになった晴くんと家に帰る。それからも晴くんはどこにも預けずにうちにいる。
魂は天国に、体は今もぴろのそばで静かに眠ってる…
<2001.11.16 23:00 晴くん永眠>


  

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